PHOTOGRAPHS BY SHINA PENG


SINGULAR BALANCE ON SPOTIFY
きついデキゴト自体の内容より、その後自分がどう動いたかというのが、私たちの記憶に深く刻まれるのかもしれない。彼は、数年前の辛いことを通して、音楽という道に巡りあい、親友とも出会えたそう。そんな彼は、日本人の母とアメリカ人の父を持った、 21歳。ニューヨークで生まれ、 13歳の時にノースキャロライナ州に引っ越し、大学をきっかけに18歳の時東京に拠点を移した。大学に入学して少し経った頃に音楽と真剣に向き合う様 になり、昨年の暮れに初シングル、 Alive を配信開始した。以来、ニュージーランド在住のシンガーソングライター Lontaliusとのプロジェクトを含め、Each Other や Bare など 数々のアルバムもリリースしている。
これは登戸のカフェや河川敷をぶらっとしながら、携帯で録音したインタビューの一部である。久しぶりに時間がゆっくり過ぎた一日だったかもしれない。緩く流れる時間だからこそ、すこしだけ彼の人間性、そして音楽との向き合い方に触れられた気がする。
いつごろ音楽を始めたの?
2017、2018年ごろかな。その頃スケートボードにはまってて、一緒にすべってた仲間がよくSoundCloudで結構マイナーな曲を聴いてて、少しずつ興味が湧いてきたんだ。大学に入ってギ ターをよく弾いてたんだけどさ、ギターだと僕が求めてた音にたどり着かなくて、どうしても物足りなかったんだ。ちょうどその頃スケボで膝を怪我して、特に勉強熱心でもないし時間をとにかく持て余してて、「どうしよう?」ってなってる時に、音楽と本格的に向き合い始めたんだ。
どういう音楽を創るの?
エレクトロニック系とオルタナティブ系が混ざった感じかな。高校の時にギターを始めたんだけ ど、すごくオルタナティブ・ロックが好きで、パラモアとかにハマってて。曲の展開の仕方とか、 メロディの流れとかにすごく感銘を受けて、それに結構影響を受けてる気がする。
音楽を創る上で、どういう時に幸せを感じる?
音楽を組み立てる時に、全面的な自由がきくところかな。自分で何をしたいか、どういう自分を 音楽を通して伝えたいか、とか全部好きな様にできるんだ。それと、たまに音楽が「自分の中から自然に滲み出てくる」様な感覚があって。
気心知れてる友達と、肩の力抜いて「なんとなく」音楽を 創ってる時とかにあるんだけど。本当に魔法にかかったみたいで、一度経験すると忘れられない、なんとも言えない感じ。
じゃあ逆に、音楽を創る上でこういうことが「つらい!」 っていうのはある?
方程式がないってことかな。「Xを費やせば、Yの結果がでる!」みたいなのが全くない世界。僕の友達の中には何年も一つのプロジェクト追ってるけど、まだまだ満足してないっていう人も決して少なくはなくて。インプットに対するアウトプットがどうしても予測できないんだよね。
どうしてアーティスト名を持とうと思ったの?
本名が知られたくない訳では全然なくて、単純に僕の中ではsingular balance っていう名前の方が 音楽と統一性が保てるというか、しっくりくるというか。あくまで感覚的な話なんだけどね。
他のアーティストとコラボする事ってある?
うん。音楽つながりの友達もたくさんいるから、自然とね。世界中に散らばってるんだよね、みんな。ロンドン、ニューヨーク、ニュージーランドとか。お互いのプロジェクトに協力しあったりも多いかな。彼らとは本当に波長が似てて、気もすごく合うんだ。以心伝心というか、お互いが感じていることに、すごく共感できるの。
コラボするときは、どういう流れで作品づくりするの?
工程の中で、僕が得意とするのは一番最初の部分なんだ。アイデアが浮かんで、それに合わせて粗 削りなサンプルトラックを友達に送るんだ。その中で気に入ったものに友達が自分の声をかぶせて くれて、それぞれ感想とかをグループチャットで伝え合って整えていく。そこから、ニューヨーク にいる友達に送って、彼が最終的な調整とかをしてくれる。例えば、「ここのメロディーは、ピア ノの方が活きるんじゃない?」って具合にね。皆それぞれ個性があるんだけど、合わさってうま くバランスが取れるんだから不思議なもんだよね。
もし、自分の音楽が人間だとしたらどういう性格になってたと思う?
きっと恥ずかしがり屋なんだろうなぁ。傷つくことが怖いんだけど、素のままの正直な自分を出していこうとしてる、感じかな。
一人で作品作りするときの流れはどんな感じ?
パソコンに繋げられるキーボードがあって、Abletonっていうソフトウェアでいろんな楽器の音に して取り込んで、気に入ったメロディを思いつくまでイジってるかな。で、気に入った主旋律みたいなメロディがある程度できたら、今度はそれに手触りを足していく感じかな。音を少しずつ重ねて いくんだけど。最近は、余計なものを削ぎ落とそうとしてる。ごちゃごちゃにするより、一つ 一つの層に拘ろうとしてる。
会話の中で、彼の愛読書 The Unbearable Lightness of Being の話がでてきた ー 作中に「おもた い人生」と「かるい人生」という概念が出てくる。あらすじとしては、人生観が対照的な男女の ラブストーリーだ。おもたい人生を探し求める女性は、人間関係ならではの柵だったり、人生の中の使命感などを大切にしている。対照的に、男性はそういう重荷を避けて、解放的な人生を過ごしたいという設定のもと物語が進められていく。
そこで、彼にかるい人生派?おもたい人生派?という質問を投げかけてみた。
おもたい人生を自分から選択したいな。おもたい人生にはたくさんの柵とかがあるんだろうけ ど、僕はもっと重みのある、意味のある関係性を人と築きたいんだ。多分、こっちの人生の方が 苦しいし、感情の起伏も激しくならざる得ないんだろうけど僕は全部を受け止めたいと思って る。多分幸せを感じるには、苦しみを乗り切ることが必要なんだろうし。今まであった、きつかった事とかも、人生をやり直せたとしても多分何一つ変えたくない、って思うんじゃないかな。
作品を創る上でどういうところで発想を得てるの?
お散歩をよくしてみたり。いろんな人と話ししてみたり、が多いかな。やっぱり人といると自分 の中でいろんな感情が動くから、結構そういうところから着想を得てる。
何も感じなくなっちゃったら、作品にする燃料的なものが尽きちゃうからね。
初めて出したのは、なんていう曲だった?
友人の Lontaliusと一緒につくった Aliveっていう曲。
どうしてAlive っていうタイトルなの?
僕たちの人生の中で「ああ、生きてる!」って感じれた瞬間がたくさんあったから! この曲のバックトラックをつくってて、Lontalius の声が聞こえた気がするぐらい、彼にぴったりのメロディーで。彼に伝えてみたら、彼も同じ様に感じてくれてて「絶対にうまくいく」っていう 不思議な確信が持てて。で、彼とこの曲をつくっていくうちに友達になったんだ。
一番思い入れが強いのはどれ、とかってある?
最近のもので、一番気に入ってるのは Bareっていう曲かな。でも、一番思い入れが強いのはまだ 未発表のEPだなあ。ぜひお楽しみに!
今後のプロジェクトはどんな感じ?
あと数ヶ月後には新しいEPをリリースする予定なんだけど、今までの中で断然一番だと思う。友 達のLontalius が親身になって色々教えてくれて。僕の音楽との付き合い方が変わった作品集だと思 う。今までの努力の集大成というか、皆が教えてくれたことを詰め込んでるというか。自分でも一 皮剥けたかな、って思う。
一番大切にしてるアドバイスは?
Lontalius と EDEN の受け売りなんだけど、「自分の流れを、自分のペースを信じる」っていうことかな。 しっかりと、自分を信じると、起きるべきこと、会うべき人と自然に巡り逢えていけ る気がするんだ。
Lontalius と EDEN の受け売りなんだけど、「自分の流れを、自分のペースを信じる」っていうことかな。 しっかりと、自分を信じると、起きるべきこと、会うべき人と自然に巡り逢えていけ る気がするんだ。


PHOTOGRAPHS ABOVE BY ERIC TSUI