主にどういう音楽を創作してるの?
うーん、自分の音楽を説明するのってなかなか難しいんだよな。一個前のインタビューで話した様に僕の人生は色々な「極端」から相成っていて、それの反動で断定的に物事を決めることを避けている部分があるんだ。自分の音楽においても、エレクトロニック、チルステップ、アンビエントってカテゴリーをつけてないんだよね。こうする事によって、創作する上で主導権を自分が掴める気がするんだ。各ジャンル特有のルールというか、しきたりに囚われずに済むんだ。自分の「スタイル」的なものは、時間が立つにつれ浮き彫りになってくる気もするし、一生見つからない気もするんだよね。うーん、どうだろう。

アンビエント・ミュージックにハマったきっかけは?
多分これは、自分の個人的な趣味からなるものだと思う。最初はチルステップ、ドラム&ベース、エレクトロニック系が好きで、少しずつ静寂というか、落ち着きを求める様になって。それで、アンビエント・ミュージックに流れ着いたんだ。数年前にMrSuicideSheepっていうチャンネルをよく聴いていたんだ。今はもう量産的な音楽が増えちゃって、ちょっと惜しい気もするんだけど。とにかく、当時の僕にはとっても印象的で、そのチャンネルを通してPhaeleh, ID3, Koda, Sorrow, Tom Day, Tony Anderson, Hammockそして今も連絡をしあう仲の Rocket Scienceとかに出会えたんだ。
もう、このチャンネルをあまり聞かないのは、単に音楽の方向性が変わったっていうのもあるけど、どうしても昔を思い出しちゃうから意図的に避けてるかも。その当時の感情を痛いぐらい思い出させる力、つまり栞みたいにちょっと引っ張ればものの秒でそのページに戻れる…人の心にそこまで住みこめている音楽、って別格の何かがあると思うんだけど、どうしても聴くのはツライんだ。

どうやって、音楽を学んだの?
学ぶというより、自然と身についたっていう方が、感覚的にはあってるかもしれない。18歳ぐらいまで、楽器を触った事がなくて、音楽の理解ももちろん乏しかった…気がする。でも、とりあえずたくさん音楽を聴き込んだんだよね。たまに、コードの原理とかについて無知だったその頃に戻りたい、って思うな。その当時は完全に感情を元に創作していてまさに「創りたいから、創る」っていうだけだった。もちろん、今もできるだけ正直な音楽を創りたいと思うし、なるだけルールを取っ払っているんだけど、多くのものを手にしたからこそ、あの時の濁流みたいなクリエイティビティを失ったんだと思う。
昔よくDeviantart っていうウェブサイト内でぶらぶらしてたな。僕の中では画廊をお散歩してる感じだったんだけど。世界中のユーザーが創ったものを見るのが楽しくて仕方なかったんだ。色々な人の表現を冒険しているみたいな感じなんだけど…それまでビジュアルだけに限定されていたものに対して音を与えたい、っていう衝動にかられたんだ。それがアンビエント・ミュージックの強みだと思う。何かの周りに佇んでいる空気とか、何かを取り囲む自然の音とかを表現する音楽だからね。​​​​​​​
どういう時に一番インスピレーションを得てると思う?
綺麗な景色を見た時とか、特別な空間にいる時、写真を見た時、アートに触れた時とかかな。僕は見たもの、感じたものを音として表現してるから。昔から目にしたものを忠実に脳内で再現する事が得意でそれがすごく音楽に活きている。パソコンに向かいながら脳内で昔見た世界に踏み込んでみるとその中で音楽が流れているというか…その脳内の映像に見えている空気感を捉えて音楽に落とし込むっていう感じかな。将来的には、ぜひショートフィルムとかアニメーションに携わって音楽を創ってみたいなぁ。
僕にとって音楽とアートって、切るに切れないもので。並行して走っている道というよりは完全に一つの道なんだよね。音楽を創るのと同じぐらいの時間を、アルバムカバーの制作をお願いするアーティストさんを探すのに費やしてるかも。色々なYouTubeチャンネルで音楽を取り上げてもらえるのはありがたいんだけど、自分が選んでいないビジュアルと一緒に流れていると、どうしても違和感というか…うん、僕のこだわりなんだよね。Fireplace Project の時とか特に元となった絵と一緒に音楽を公開してくださいって、色んなところに念を押して回ったんだよねー。そのビジュアルがあってこそ生まれた音楽だから、それを割いてしまう事はできないんだ。​​​​​​​
創る音楽全てに通ずるテーマの様なものはあったりする? 
僕の感覚では、音楽って聴き手によって自由に形が変わるものだからなぁ。僕が本流で、そこか ら支流の様にいろんな受け取り方が派生している感じ。僕は自分の音楽が時を超えて、人々と長 い時間寄り添えるといいな、って思いながら創ってる。消費されて終わるものじゃなく、もう少 し長い寿命を持った、聴いてる人の一部になっていく様なものが創りたいんだ。辛い時、迷った 時、少しでも僕の音楽に光を感じてくれる人がいると思うから。

音楽を創る時、どんな工程を踏むの? 
結構いろんなパターンがあるんだ。それも、色んな音楽をプロデュースすればするほど、自分の中 のクリエイティビティを引っ張り出す方法が増えてる気がする。僕はあんまり旅行をした事がな いから、想像力に頼ってる部分が多いかも。空想にふけるのも好きだし。パターンとして、最近多 いのはキーボードでその日想像しているもののフィーリングにあったメロディを並べるところから 始めてるかな。それがうまくいかない時は、Artstationっていうウェブサイトで気になる雰囲気 を醸し出してる絵を探したりしてるかな。それで、その絵にあった音を創っていく感じ。

Fireplace Project はそうやって始まったんですね! 
そうそう。このプロジェクトのために絵を描いてくれる人を募って、それらの絵の為のサウンドト ラックを創るんだ。グラフィックに音がついて、まさに新種のオーディオブックみたいな感じだ ね。
特に3hil (アズィーカ・ハンさん)が創ってる作品にはすごく動かされるものがある。彼女のお陰で前シーズンのFireplace Talesがたくさんできた。今は次のシーズンが楽しみでたまらないんだ。絶賛苦戦中なんだけど、より新しい形で、絶対に戻ってくるから!このプロジェクトのパトロンになっていただける方は、ぜひリンクに飛んでください!

音楽を創ってる時に、気をつけてる事とかってある?
一つ一つの曲に物語がある様に気をつけてる。ストーリー元々存在しない事には、人にメッセージを見出してもらうのは、無理があるからね。
逆にルールに囚われすぎない様に気をつけてるかも。音楽を創るときは極力そういうものを無視したいんだ。トレンドだったりジャンルに拘りすぎない様に、なるだけ自分が好きなものを追求する様に仕向けてる。特に有名になりたいとも思わない。僕が音楽に求めるものは、現実で叶わなかった事:ありのままの自分でいられる事。自分が創る音楽が属するジャンルは常に変わっていくと思うけど、常に自分に正直でありたいと思う。僕の音楽を聴いてくれる皆が、僕の音楽を通して落ち着ける空間、自分でいられる空間を見つける事ができることを切に願ってる。

どうして音楽はあなたにとって特別な存在なの?
多分ね、音楽は僕が心の底に押し込めてる感情を、呼び覚ます事ができる数少ない存在なんだ。割となんでも、悲観的に冷めた目で捉えちゃう質なんだ。だからこそ、自由なもの、独創的なものに強く惹かれるんだと思う。音楽には語彙がないのに、色んな国の人に感情を伝える事ができる。音楽がなければこの世はなんと味気ない場所になっちゃうんだろうって、よく思う。
音楽は僕の外見を見て蔑むことも、僕の服装を批判することもない。ただ、人の目をしっかり見据えて、時間に埋もれてしまった感情を、記憶を呼び覚ましてくれる。
僕は音楽を信じてるんだ。だって、永遠で、ポジティブで、人を傷つけずそっと寄り添ってくれる。明るいものも、暗いものもあるけど、一つ一つの感情を咀嚼する手助けもしてくれる。音楽とは神聖なもので、音楽自体が僕のミューズなんだ。僕の手を握って、生きる理由を教えてくれるんだ。

このお仕事をしてて、ツライなーって思うのはどういう時?
音楽業界において、変えたい事が結構あるんだよな。まぁ、すごく好きな業界だからこそだと思うんだけど。
世の中のあらゆる物において言える事なんだけど、最近何事も消費傾向にあるよね。だからこそ、供給側も常に焦らされていて。ストリーミング・プラットフォームが整備されたこともあって、ますます音楽が消耗品になってしまってる気がする。この消費傾向に合わせて、レコード・レーベルもアーティストの勢いに常に気を配っていて、増えている供給に埋もれてしまわない様に、ツキイチみたいなあり得ないペースでのリリースを促してるんだ。需要に合わせて、供給することを目指しすぎると作品との携わり方が不自然になってしまう。アーティストとして今後そういう立場に立つ事がないことを祈るばかりだよ…僕は多分そういう創作スタイルについていけないから。僕の音楽を聴いてくれる人がゆっくり、ゆっくり増えてくれればいいな、って思うくらい。ファンベースの皆とたくさん話したいし、僕のことをアーティストとして、一人間として知って欲しいんだ。​​​​​​​
今の心配事は?
やっぱり将来だよね。自分で予定が立てられないもの全般。子供の頃から、不安症だったんだ。不安症も鬱も僕の中に跡を残してて、多分一生この跡は消えないんだろうなって。それと、あらゆる創作活動って、自分の潜在意識に潜って、行うものだから無事に浮上できなくなる時がくるかもれしれないっていう不安もある。
クリエイター全員が感じることだと思うけど創作欲とか、インスピレーションが急に途絶えるかもしれないっていう漠然とした不安もある。挫折して立ち直る力が僕の中にあるのか、って。10年後の僕は今みたいに音楽を創れてるのかな。ちゃんと意志を貫けているのかな。自分の中の暗闇に打ち勝ち続けられるのか。ちゃんと前を見て、一つ一つ障害を乗り越えていけてるといいな。

普段、どんな音楽を聴いてるの?
他の人の音楽は僕にとってのインスピレーションだし、自分の存在意義をしっかり主張してる曲につい、耳を傾けちゃう。最近、よく聞く曲は Kisnou’s Favorites っていうプレイリストにまとめてあるよ。2015年に集め始めたんだけど、もうそろそろ200曲ぐらいになるんじゃないかな。もちろん、市場調査的な意味で今流行の曲を聞いたりするけど、うーんどうしても惚れこめないんだよ。
僕は、自分のことを勝手にseeker of hidden gems ー 隠れた宝石を探す者って呼んでるんだ。ブログとか、トップチャートとか、有名なアーティストのリリースとかじゃない、イイ曲を常に探しているんだ。表面下に潜む名曲というか… Soundcloud, Youtube, Spotify の隅っこに潜んでる曲に無性に惹かれるんだ。チャーミングで、ユニークで。これを創った人は、どういう人なんだろう?どうしてこの曲を創ったんだろう?って考える時間さえ楽しくて。彼らが創る曲の全てが大切な告白の様に聞こえてきて。ぜひみんなにも聞いてみて欲しい。
例えば、Half Dust の ‘Temptation’っていう曲とか。この曲を聞いていると日が暮れかけている荒れた地を、ひっそりと歩いて回る探検家を遠くから見ている様な気分になる。絶対に会えないってわかってるのに、探検家がどこに向かってるのかがどうしようもなく気になってしまう。少し切なくて、不思議で、ミステリアスで… 僕はこういうアーティストを、こういう曲をもっと見つけたい。
本当の本当のお気に入りはSoundcloud上に作った、Hidden Gems、隠れた宝石っていう、非公開プレイリストに入れてる。今のところ124曲かな。ほとんど再生回数が10,000に満たないものだよ。全部僕の心の中にしっかり住み着いちゃってて、それを公開するのは僕の心を全開にしてる様なものだから、まだ皆と共有する準備はできてないんだ。もう少し大人になったら、いつかは、皆と共有したいと思ってる。
そのほかだと、Ambient Music Genre っていうチャンネルとかもおすすめかな。実は、僕の音楽が広まったのはこのチャンネルのおかげとも言えるんだ。このチャンネルは、アンビエント・ミュージック界のパイオニア的存在だから、初めて取り上げてもらったときは感動した。より多くの人たちに、このジャンルに触れて欲しいって思う一方、僕にとって神聖味があるところでもあるから、広まるのが寂しいって思う部分も否めない。
結論で言うと、あまり「ここで音楽を聴く!」って言う指定はないかな。やっぱりYoutubeとかの戦略的アルゴリズムに引っかかるんだけど、できるだけ、意識的に自分の意思を持って探しにいく様にはしてる。最近見つけたのはRuby My Dear の ‘Shee’ とかかな。実は、この曲のおかげで IDM/Breakcore っていうジャンルを見つけたんだ。結果として、僕の ‘Vesper’‘You Will Not Drown’っていう楽曲のインスピレーションになった。
最後に一問。どういう時に「あっ、この曲完成したな!」って感じるの?
わりと絵具で絵を描くことに似たプロセスかもしれない。雰囲気とか、場所とか、歴史とか、いろいろな要素を足して行って、足すものが無くなった時点で完成かな。
その曲の元となったストーリーを軸に自然の音とか、雰囲気を確立してくれる様な音を足していくんだ。まさにその曲の中の小さな世界を組み立てていく感じ。曲の最初から最後までがちゃんと一貫した世界観、で一つの物語にまとまったな、って思ったら、終わりが見える。
でも、うまくいかない時も本当に多いんだ。僕自身が人として不完全な気がして、自信を失っている時とか、うまく波長が合わない時とかは特に。好きなメロディーなんだけど、雰囲気がちょっとズレてるっていうのはもは日常茶飯事だよ。そういう場合、とりあえず精一杯終わらせて、それは公開せず、次の曲を始める。やっぱり、公開するものに関しては量より質一択だから。
どうしても、鬱な状態が続いたりすると曲の制作が難しくなるときがある。なんていうか、鬱に乗っ取られちゃうんだよなぁ。正しいことと間違ってる事があやふやになっちゃったり。劣等感に苛まれるとは、まさにこの事だな。自分のことを信じられなくなっちゃって。そういう時は、大抵、制作中の曲に感情をぶつけてしまって、巻き込んでしまう。
不安定な時も、それを一度受け入れて「大丈夫。君は強い。今回は、今日は鬱に勝ったんだから、いいんだよ。次は、鬱に乗っ取る余地を与えるものか。次はもっといいものを作ってやる。」って言い聞かせる。
音楽があるからこそ、僕は前に進めるんだ。

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